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LLFK-vol50 本来の京都

Season6「旅」本来の京都 2022年6月24日

先日お会いした方に「LLFK毎回読んでますよ。」と言われました。「あ、ありがとうございます。」とっさにそう口に出したものの、実際に読んでいる方と会うことはほとんどないし、なんだか脳の中を全て見られているようで、恥ずかしくて何も言えませんでした。きっと、思った事感じた事をそのままダイレクトに書いている証拠なんでしょう。まぁ、それはそれで良しと。
最近思うのですが、年齢を重ねて行くと嫌でも社交性がついてきて、周りに気を遣えるようになってきます。そうすると、知らない間に自分を押し殺していて、本当に思っている事を言えなくなっています。メールの冒頭に“お世話になっております”と書いていて、ふと「本当にお世話になっているんだろうか?」と思うんです。あなたの身の回りでもそんな見覚えあったりしますか?

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鈴虫モードはまだまだ続く

前回の話には続きがあります。鈴虫寺で説法を聞かせていただき、心の掃除を終えた僕の目に飛び込んで来たのは、美しい雨の京都。お寺の階段を降りながら、普段は気も止めないような景色を撮影して歩きます。その余韻をなるべく長く楽しんでいたい、このまま街中に戻ってしまったら勿体ない気がして、ちょうどお寺の横にあったbamboo cafeというカフェへ入る事に。

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思ったよりオシャレな店内。深煎りのホットコーヒーといちじくのパウンドケーキを注文します。すると、「奥のかぐや姫竹御殿にお座敷もありますので、よかったら。」と店員さんが。
狭い入り口をくぐると、縁側のある和室が広がっていました。気分的には完全にこちらです。畳に座りながらゆっくりと時間が流れます。もちろんBGMなんて流れていません。雨が竹屋根に落ちるタタタタ…という音に合わせて、京都の蚊取り線香でしょうか、いつものあの香りとは違うお香のような匂いがふわっと香ります。鈴虫モードはまだまだ継続中で、この感覚を忘れてしまわないようにと時折メモを取りながら、余韻を楽しむ。もちろんスマホなんて絶対見ません。

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木々や雨をじーっと見ていると、ピントは合っているものの実は何も見ていないような感覚になります。色んな考えが頭の中に飛び込んできますが、まぁいいや…と流してしまおう。心の掃除ってこの時間の事を言うんだろうなぁ。
今こうして思い返せば、いかに自分が脳を忙しくして日常を過ごしているかが怖いほどわかります。
この縁側から見える風景はそんなに変化に富んだものではありません。むしろ何も起きていないに等しい。ただ、こういう何も起きていない空間に身を置いて、1時間程過ごすなんて都市生活ではなかなか叶えられない気がするのです。必ずどこかからノイズが入り、ひとりの時間は中断されてしまう。そう考えてみると、何もない事の方が価値ある時間なのかもしれませんよね。

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エースな

カフェを後にし、バスで揺られること1時間。京都に来たからには一応見ておこうと思っていた、Ace Hotel Kyotoへ。さすが最新スポットだけあって、入る前からオシャレオーラ全開です。一歩足を踏み入れると、吹き抜けの木組みの照明が出迎えます。あぁ、なんか隈研吾っぽいなぁ…と調べてみたら、やっぱり隈研吾(笑)。(僕の中では「ジェンガマスター」と勝手にあだ名がついています)2階3階にはそれぞれ別のレストランが入っており、晴れた時にはルーフトップバーも楽しめるよう。ロンドンのAce Hotelも行ったことがあるのですが、「フレンドリーな場所」と唱っているだけあって、宿泊客より、ここを訪れている人の方が目立つ位、誰でも出入りが可能なパブリックさを感じます。

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2階のレストランに行くと、かなり贅沢な空間にも関わらずお客さんが誰もいない。週末なのに、やはりまだまだ観光客は戻ってきていないようです。メキシカンレストランPIOPIKOで、黄金の飲み物とナチョスを夕方から。明るい内のビールってなぜか美味しいのです(笑)。コースターには、“THE TORTILLA IS A BLANK CANVUS”(トルティーヤは白いキャンバスだ)の文字。こういう細かいユーモア、嫌いじゃありません。

LLFK-vol50 本来の京都

数日前に、京都で老舗の鰻屋を営む友人が話していた時のこと。ここ2,3年で京都は相当大変だったんじゃない?と聞くと、彼は「本来の姿に戻った」と言うんです。「大行列で1時間待って、滞在時間15分。鰻丼だけさっと食べて、牛丼屋じゃないんだから(笑)。今までが異常だったのよ。」と笑い流します。行列で嫌煙していた日本のお客さんが戻ってきて、そういう方達はお酒と一緒にゆっくり鰻のコースを楽しんでいかれるようです。なので、売上は以前と変わらないそう。もちろん閉店を余儀なくされたお店は多々あるようですが、彼曰く、京都は元々そんなにお店が多くて、人がひしめき合うような土地ではなかったそうです。恐らく多くの人は修学旅行=観光地として有名な京都のイメージが強いでしょうが、「本来の京都とは、もっと静かで風情を楽しむ土地だったのでは?」そんな会話をしていました。

心に残るか

「本来の京都か…」そう呟きながらビールを飲んで考える。確かに新しい施設は楽しいし、刺激がある。…でも何か心に入ってこない。表現するとすれば、“情報を食べている感じ”に近いでしょうか。ここに行こうと決めて、そこを訪れ、自分の期待値と天秤に掛ける。そして最終的に良し悪しを決めて去る。観光はこの要素がかなり強いと思うんですね。確かにAce Hotelは素敵な場所ですが、鈴虫寺の雨に濡れた木々達には遠く及ばない。きっと覚えている時間も全然違う。そう考えると、心に残る旅先ってどうやって選んでいけばいいんでしょうね?入り口はきっと情報に頼らざるを得ないでしょうし。「心に残る旅の作り方」そんなものに興味を持ち始めるのでした。

つづく

LLFK-vol50 本来の京都

和田 健司 オランダDesign Academy EindhovenにてDroog Design ハイス・バッカー氏に師事、コンセプチュアルデザインを学ぶ。 同大学院修士課程修了。大手広告代理店勤務の後、2011年 “what is design?”を理念とする(株)デザインの研究所を設立。研究に基づく新たな気付きを、個人から企業まで様々な顧客に価値として提供し続けるコンセプター。