Part 3.

「ファッションから美術品へ
アンティーク時計の価値が変わり始めている」

だまだ発展性の高い時計業界の今後の展望は?

中山
「成瀬さんは僕を時計業界のパイオニアだと言うけれど、成瀬さんも時を同じくして腕時計に関わってきた重要なパイオニアなんだ。彼が持つ先見の明はとても鋭いと思うし、確かだと感じている。
まず、成瀬さんは今後の時計業界をどう見ているのかな?」
成瀬
「僕は先程も言ったように“真価が問われる時代”になると思っています」
中山
「再びアンティーク時計が求められる時代がやってくる、と?」
成瀬
「高級腕時計の時代になって久しい今、腕時計のニーズは二極化が著しくなっています。10~20万円くらいの比較的手に入りやすい価格帯のニーズが定着する一方で、200万~300万円以上の最高級品を求めるニーズも高まっている。ブランドに至っては、ロジェ・デュブイやオーデマ・ピゲなど、デザイン性はもちろんのこと、ムーブメントにも定評があるブランドに注目が集まっています。買い換えのお客様が従来お持ちの時計よりもワンランク上の時計を求めることから、次第により高級で質の高い時計が主流になりつつあるんです」
中山
「日本でも高級腕時計がステータス・シンボルとして認知、定着した証拠だね」
成瀬
「時計業界が増益傾向にあるのも、腕時計の単価が上昇している事も影響しているでしょう。お客様の高級志向はこれから高まるばかりです。だからこそ希少性があり、職人の技が生かされている本物のアンティークが今見直されているのだと思います。私たちはより確かな眼で時計を見極め、より提案性の高い接客をしなければ、次の時代を創りあげることは不可能です。私がアンティークの時代が来ると予言するのは、そうした背景があるからです」
中山
「僕たちが時計ビジネスを始めたのが1980年代。1960年代のアンティーク時計なら20年前の時計ということだったから、当時は比較的状態の良い品を入手できた。しかし、ここ2~3年、アンティーク時計の販売は非常に困難だと言われている。それは、良い状態のアンティーク時計が市場にほとんどなくなり、例えあったとしても、故障した場合の部品の在庫がなく、保証が出来ないからだ。アンティーク時計を扱う店は確実な仕入れルートを世界中に確保し、より専門的なノウハウが必須となる」
成瀬
「私たちのような長年に渡って積み重ねられた経験とノウハウは、時計業界にとっても貴重な財産となるはずです」
中山
「20年前、アメ横で売れ残っていたアンティーク・ロレックスが、今では100万円以上という現実になってきた。当時のアンティーク時計ブームは、若者に向けたファッションブームだったが、今度来るアンティークブームは本物志向型の美術品流通だね。今、日本のマーケットで200万前後の、商品の点数が少ないROLEXのクロノグラフなどが、アンティコルムなどのオークションマーケットで2000万になっている。世界中の投資家やアンティークファンが、その流れに乗って動き出している。アンティーク時計は、今や貴重な美術品なんだ」
成瀬
「腕時計の美しさや奥深さに魅了された人々が次に求めるのは、時代を刻み続けてきた歴史やそのルーツなのかもしれませんね」
中山
「僕がリーバイスのデニムと一緒に売ってきたアンティーク時計が、今、次の時代を創ろうとしている。それは、腕時計に美術品としての真価が求められると同時に、それを扱う我々にも真贋の眼が求められるという事でもある」
成瀬
「僕は、まさにその時代を待っていたんです」
中山
「真の時計ディーラーだけが生き残れる時代になる。ある意味厳しいが、私はそれを大きく期待したい。この時代をどのように経ていくかが、時計業界の将来を左右する大事な過渡期なるのだから…」