Part 2.

「スウォッチブームを機に、時計はアンティークから新品へ。
異業種からの参入を許した、という気持ちは拭い切れない」

現在では現行の高級腕時計が主流ですが、その移行のきっかけは?

中山
「僕が新品の腕時計を扱うようになったのは、アメリカで日本人の時計ディラーを知り合ったのがきっかけ。『ジャック・ロード』を始めてから、5~6年程後の話だと思う。アンティーク時計と一緒に、新品の時計も並べて売っていたよ。新品の主になったのは、やはりロレックスだった」
成瀬
「業界的にアンティーク時計から新品時計へ移行する大きなきっかけになったのは、スウォッチブームじゃないですかね? 中山さんの店でも扱っていませんでしたか?」
中山
「僕の店でもミュージアムと呼ばれるくらい多くの品数を扱ったよ。スウォッチはファッション性が高くて、洋服のように季節ごとにアイテムが登場し、中には人気アーティストとコラボレーションした限定モデルも登場したから話題性も高く、当時は飛ぶような勢いで売れたね。大量入荷で店頭の商品数が充実している時は、一日で1000万円近い売り上げがあった日もあった。今考えると、異常な程のブームだった」
成瀬
「僕の小さな店でもたくさんのスウォッチを扱って、名古屋で専門店と呼べる店は他にはほとんどなかったので話題でした。連日、多くの若者が詰めかけていましたよ」
中山
「それも3~4ヶ月程のことだったね。短期間の間に膨大な数のスウォッチが売れて、時が過ぎたら急に静かになった。ブームってそういうものなんだ」
成瀬
「そういうブームを体験すると、日本人の若者の買い方に少し疑問を感じます(笑)。スウォッチブームが落ち着いた頃にG-shockが流行って。それらのブームが機になって、腕時計がより一般化され、業界的にはロレックスなどの高級腕時計の時代に突入していく。僕らが時計をビジネスにした頃は、日本での時計市場はほぼ未開拓の状態でしたが、中山さんをはじめとしたパイオニアが海外へ赴いて仕入れをし、卸、小売りまでを行うことで、次第にマーケットが確立されていった。高級腕時計の時代が来た頃には、マーケットとしては次なる時代、『成熟期』を迎えようとしていたと感じます」
中山
「当時のことを振り返るとどう思う?」
成瀬
「時代は推移するものですから、アンティーク時計やスウォッチのブームも、高級腕時計の時代も、それぞれの時の良さがあり、現在に至るのだと考えています。昔、僕たちも何でも買ってましたし、何でも売れましたよね。アメリカの大きなアンティーク市場としてIWJGの見本市が行われている都市から、ありったけの腕時計を持って来ていた。そして新品のブームになり、香港とヨーロッパという市場からありったけ持ってくるようになった。ですから、当時の事を肯定も否定もしません。しかし、高級腕時計の時代到来により、異業種からの参入を許した、という気持ちは拭い切れませんね」
中山
「経済的に豊かであれば、どんな業種でも時計業界にも参入できた、という訳だね?」
成瀬
「そうです。アンティーク時計は知識が深く、ルートを確保していなければ扱いは困難ですが、新品はお金があればいくらでも仕入れることができる。しかも、マーケットはある程度確立されていましたから、参入するのは容易かったんではないでしょうか。結果的に見れば、大手の参入によって、時計市場はより拡大され、不動のものとなりましたが、一方で時計に対する確かな眼を持ったディーラーが少なくなってしまった」
中山
「確かに高級腕時計の時代で、腕時計は一般化されすぎてしまったかもしれない。しかし、今また時代は移り変わろうとしている。成瀬さんも感じているんじゃないかな?」
成瀬
「そうですね。次は蓄積された真贋を見極める力が大きく時代を変えるでしょうね」