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LLFK-vol60 シーズン7 design 人の手で作ること

Season7「design」人の手で作ること 2022年12月22日

ラーメン屋の前に置いてある自動販売機。ファミリーレストランで目にする配膳ロボット。空港内を行き来する自動運転イス。ここ数年で、僕らの身の回りであらゆる機械やロボットを見かけるようになりました。「今日は人間より機械に接している回数の方が多かったんじゃないか?」と思う日もしばしば。冷凍食品ですら、ロボットが作っている有り様。

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先日、数年ぶりに期限切れしていたパスポートの更新のため写真を撮影しに行きました。証明写真機で大丈夫だろうと甘んじていたのが良くなかった。残念な写真が取り出し口からペッと吐き出されるように出てきました。この顔を10年見続けるわけには…と改めて写真屋で撮り直しをすることに。「顎を上げて。そうそう、もう少し表情をやわらかく、ニッコリと。」親切に何度も撮影をしてくれ、これならどこで見せても恥ずかしくない写真が完成。改めて人の手で何かを作ってもらうことの大切さが身に染みたのでした。

岐阜の糧

最近、妙に頻繁に訪れる地域「岐阜県」。僕は愛知が地元なのにも関わらず、30分ほど電車で揺られ、隣の岐阜まで来てしまうのです。その理由のひとつがこの場所にあります。自然派料理店「糧 -qualite-」。“かて”と書いて“カリテ”と読みます。生きるのに必要な食事としての「糧」と、フランス語でクオリティーを意味する「qualite」を重ね合わせた、なんとも深いネーミング。岐阜産の食材しか基本的に使わないという徹底したコンセプトの元、和とフレンチのフュージョンを中心としたオリジナリティ溢れる料理の数々が堪能できます。

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実はこの糧のオーナー兼料理人の中根正貴シェフは、僕の20年来の友人。今まで彼の料理を色々な店で食べ続けてきたのですが、2021年11月、コロナ禍の真っ直中に意を決して自身の店をオープンするということで、オープン前からとても楽しみにしていました。ある日彼から、「糧のロゴデザインをお願いしたい。」という依頼がありました。普段のお仕事では、僕がコンセプトを作り、デザイナーさんと共に制作をするのですが、今回は僕にデザインをして欲しいというお願い。一友人としても嬉しい出来事なので、できることは何でも力になろうと思い、喜んで受ける事にしました。

実際に何回か打ち合わせをしてヒヤリングを重ねた上で、デザインも数パターン提案しました。何度か提案するも、納得のいくロゴを見出試行錯誤する事数ヶ月。最終的に決まったのは「こんな感じかなぁ。」と最初に打ち合わせをしながら、その場で描いた手描きのロゴでした。
「糧という文字は、画数が多く固くて重い印象だから、少し太めのマーカーでぎゅぎゅっと、誰でも真似できる位に簡単で、かわいい方がいいかもね。」試し書きをしながら話したその手描きが、そのままお店の看板になるとは思ってもおらず、こんなんで大丈夫!?と最後まで自分自身疑っていたのです。もう少しカッコイイロゴの方がいいんじゃない?と最後まで思ってすらいました。

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あぁ

お店がオープンし、ようやく彼の料理を食べるタイミングが訪れます。「前菜の盛り合わせです。」 と出てきた皿にはなんと糧のロゴの焼き印が〜。これにはさすがに驚きました。自分で描いた文字を食べるのはすごく変な感覚で、毎回行く度に不思議な気持ちになります(笑)。そんな印象とは打って変わって、食べてみるともの凄く優しい。他の料理にしても、素材の風味がまず最初に伝わって来る繊細な味付けで統一されています。

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一皿一皿、食べ進めて行くごとに、そこには「あぁ、そういう事だったのか。」と納得していく自分がいました。調理はあくまで引き立たせ役に徹し、肉や野菜の素材の良さが前面に出てくる。中根君の料理は優しい味がします。彼曰く「基本何でも作るから(笑)。お子さんが来たらオムライスでも作るし。」リクエストにはなるべく応えようとする彼。困っている農家さんや肉屋さんを助けている姿も、幾度と見たことがあります。料理だけではなく、彼自身もまた優しい人間なのです。そんな人のお店のロゴが格好つけているのはちょっと違いますし、周りの人が集まってくる彼の存在自体を素直に表現する位が良い。だから中根君はこのロゴを選んだんだ。その時初めて腑に落ちました。

お客さんは、ロゴをカワイイと言ってくれるそうです。彼自身もそう言ってもらえる事に満足しているようで「力を入れすぎると、長く続かんのよね。ウチは基本的に定食屋のスタンスですから、ハハハ。」と笑って話してくれました。

友人のようなデザイン

長良川の川辺に佇む“糧”。岐阜の優しさをぎゅっと絞った、「友達のような料理」がそこにはあります。僕の手描きロゴも見れますし、特別仕様のSTIIK 無垢バージョンを使って召し上がって頂けます。本当に良い所ですので、ご興味のある方は是非訪れてみて下さい。

ここを訪れると、「物作りとは、食べる人・使う人の物なんだ。作り手はそこにすっと寄り添うだけでいい。」としみじみ考えさせられますよ。

機械が作る物事のクオリティが劇的に進化し、身の回りがどんどん効率化し、いつの間にか「かんたん」であることがベースとなりつつある僕達の生活の中で、手間はかかるけれども、目の前の相手のために「人の手で作る」事の大切さが、まさに今見直されるべきなのかもしれません。それは、食べる人の顔を見て作る料理であり、使う人の事を考えて作るデザインでもあります。

さて、2022年のLLFKはここまで。
今年も一年、色々な事がありましたね。
皆様、良い年末年始をお迎えください。
Merry Christmas & Happy New Year.

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和田 健司 オランダDesign Academy EindhovenにてDroog Design ハイス・バッカー氏に師事、コンセプチュアルデザインを学ぶ。 同大学院修士課程修了。大手広告代理店勤務の後、2011年 “what is design?”を理念とする(株)デザインの研究所を設立。研究に基づく新たな気付きを、個人から企業まで様々な顧客に価値として提供し続けるコンセプター。