ワールドカップを年末に見るのはなかなか良いものです。毎晩寝不足気味ですが、日本人サポーターの「試合後はきちんと清掃してから帰る」という態度が話題になっていますね。とても誇らしい事ですし、それが他国の人へ伝播しているのも、聞いていて気分が晴れやかになります。“出した物は片付ける”、そう小さい頃から教育されてきた僕ら日本人にとっては、至極当たり前の事。当たり前すぎて、みんなそうじゃないの?と思っていた位。でも海の向こう側から見れば、それは日本独自の文化なんですね。“SOUJI(ソウジ)”なんて英語を聞くようになるのもそう遠くないかもしれません。
日本では当たり前だと思っていても、世界ではそうではない文化や風習があります。そのひとつが、手土産。皆さんの中にも、誰かに会う時に手土産を持って行ったことが、一度はあると思います。「手土産ってどうやって選んでいますか?」機会があればみなさんと話してみたいテーマですね。
日本には、「手土産は消え物のほうが相手の迷惑にならない」という考え方がありますよね。お中元やお歳暮も、基本的に食品か消耗品ですし。これも日本独特のようで、例えばアメリカなどは、地方ならではのお菓子がない上に、そもそも食べ物を贈る習慣もないので、必然的に残るモノを選ぶのだそう。「相手のことを考え尽くした手土産文化」はちょっとやり過ぎじゃないの?なんて思っていましたが、違う文化の視点からとらえると、なんだかとっても素敵な文化なのかもしれません。
僕はお菓子などに疎いので、いつもかなり悩んで選んでいます。以前打ち合わせで、営業さんが手土産の紙袋を持って颯爽と待ち合わせ場所に現れる姿を見て、すごいなぁと感動していました。
つい最近、大学の教員陣と手土産の話題になり、「ヨックモックの凄さ」について語っていました。正確にはシガールという商品。皆さんも一度は家で見かけた事があるでしょう。そう、青い缶に入った少し長い筒の形をした、あれです。誕生は1969年、もうすぐ半世紀を迎える超ロングセラー商品。手土産の大定番と言っても過言ではありません。あまりに定番すぎて、今敢えてこの商品を選ぶ人はいないんじゃ?とも思いますが、それは大間違い。事実半世紀愛されているということは、それだけのパワーがこの商品に秘められているということ。
「ヨックモックって、誰に渡しても嫌がる人が一人もいないですよね。」
この言葉を聞いた時に、ハッとさせられました。確かに、どんな人が贈っても、誰に渡しても、場違いもなければ、賛否両論も起こらない。トレンドのお菓子ではないけれど、「食べられない人はいるだろうか…」と考えなくても良い。味はもちろん定評があり、袋・箱に至るまで綿密に「ふつう」の顔にこだわった設計がされているのに気付くでしょう。かっこつけず、映えを気にすることも、年齢・性別に偏ることのないデザイン。いかんいかん、ヨックモックが清掃をする日本人サポータのように見えてきました。色もブルーですし(笑)。いやぁ、これは誇るべき「心配りのデザイン」ですね。
僕なりにあれこれ選んできた中で、印象深いギフトにできる、あるルールを発見しました。それは「ストーリー」です。ただ、ストーリーといっても、人気の商品だとかの情報や、作り手側の話ではなく、実際に自分が使ったり食べたりしてできた「贈る人のストーリー」を伝えます。例えば、ヨックモックも上で書いたように“見た目は地味かもしれませんが、日本人の国民性をまとった、素晴らしきデザインなんです!”と伝えれば、「そんな風に考えた事なかった。なるほどね〜。」となるはずです。
そんな中で、現在のベスト・オブ・手土産をご紹介しましょう。愛知県の老舗の和菓子屋「花桔梗」さんで売られている、寒氷(かんごおり)という商品です。氷と言っても冷たいわけではなく、寒天を溶かして固め、特殊な乾燥技術で干し固めたもの。和菓子の技法としては昔からあるものですが、現在は作っている所も少なくなっているみたい。1センチ四方の可愛らしいキューブを口に入れればと、シャリッとした歯ごたえと共に優しい甘さが広がります。
味は2種類、お子さんでも食べられるカラフルなレギュラーと、大人の方にぴったりなシャンパン寒氷があります。(シャンパンと言ってもアルコールはほぼ入っていません)特筆すべきポイントは、 筆箱位の大きさで40個も入っている点。そしてこの見た目と伝統的な和菓子という繊細さも持ち合わせています。例えば海外旅行など、数人に手土産を用意しなければいけない、でもできれば荷物を小さくしたい…みたいな時に最適なのです。いくつかまとめてもコンパクトで、かなり重宝します。特に企業なんかだと何人スタッフさんがいるかなどわからない場合が多いですが、40個もあれば何とかなります、きっと(笑)。海外の方には言わずもがな抜群のウケで、寒氷の説明をする必要はありますが、贈る方、受け取る方にとても配慮してあるデザインで、それも含めて日本人の美意識(Beautiness of Japanese gift)が込められていますとお伝えください。ほぼ100%命中すると思います。ホント、こういう手土産って探そうと思ってもなかなか見つからないので、機会があったら是非試してみてくださいね。
今回は手土産の話でしたが、「贈り物の世界」って、奥が深いですね。特に海外に行く時は、いかに自分が西洋的な物に囲まれて暮らしを送っているか、日本らしさを知らないか思い知らされます。伝統的な歴史を熟知する必要はないと思いますが、「これが今の日本の感覚だよ」と言えるような贈り物を2,3個は知っていたい。もう少し勉強しないとですね。(皆さんのオススメもご紹介して頂きたい位。)
年末年始はまさにギフトシーズン真っ直中。
良い贈り物に出会えますように。
つづく
和田 健司 オランダDesign Academy EindhovenにてDroog Design ハイス・バッカー氏に師事、コンセプチュアルデザインを学ぶ。 同大学院修士課程修了。大手広告代理店勤務の後、2011年 “what is design?”を理念とする(株)デザインの研究所を設立。研究に基づく新たな気付きを、個人から企業まで様々な顧客に価値として提供し続けるコンセプター。