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LLFK-vol58 シーズン7 design エアマックスの正面

Season7「design」エアマックスの正面 2022年11月17日

みなさま、お久しぶりです。ようやく寒い季節の到来ということで、先日、衣替えをしました。小さなクローゼットに入れられるだけの服しか持たないと決め、今年の春、先シーズンの冬服をまとめて処分をしたのをすっかり忘れていまして(笑)。断捨離しすぎて、着る服が全然ありません。今も半袖Tシャツで気合いを入れて執筆していますが、さすがにそろそろ何とかしないと(寒い)。

シーズン7、はじまります

現在僕は、ある美術大学のデザイン科で非常勤講師をしています。教えれば教えるほど感じるのは、「自分もまだまだデザインの事がわかっていない、奥が深い世界だ」ということ。デザインというのは、知れば知るほど専門的に細かくなっていく分野ではなく、あれもデザインと言える、これもデザイン?と他の業界へとアメーバのように広がっていく分野なのです。一般的には、デザインが良い=目立つもの・カッコイイもの・きれいなもの・かわいいもの・売れるもの・のような「図案や装飾」としての認識が強いですが、実は英語の“design”にあたる日本語には、ぴったりしたものがないのです。

LLFK-vol58 シーズン7 design エアマックスの正面

じゃあ、デザインってどういうものなの?というと、言葉の由来にヒントが詰まっています。デザイン(design)という言葉は、ラテン語のデシグナーレ(designare)から派生しており「表示する」「指し示す」「計画したことを記号にあらわす」といった意味をもちます。例えば、洞窟で迷ってしまわないように壁画を書いたり、ロープを這わせたりする。それらは決して装飾的である必要はないけれど、人が気付く位に目立つ必要はあります。デザインとは、美しくある以前に、計画通りに人を動して目的を実現できるか、という意味があるんですね。

僕もいまだに、教わることが多い。自分自身も学びは止めちゃダメだなと。なのでシーズン7のテーマは「design」としてみることにしました。僕の視点で、わかりやすく、楽しいデザインの世界をお届けできたらと思います。

憧れの95は、あなたが履いて

靴の面白い話をしましょう。NIKEのAIR MAX95というスニーカーがあります。1995年に発売し、スニーカーブームを作った一足。当時を知っている方は、その熱狂ぶりを覚えていらっしゃると思います。2022年の現在でも販売されており、未だに人気の衰えない伝説の商品です。このAIR MAX95、僕も今まで何足か履いてきました。履き心地は抜群で、風船の上を歩いているようなクッション性とキュッと足を支えてくれるホールド感はやみつきになります。ただ、いつもいつも思う事がひとつありまして…あまり声を大にしては言えないのですが…それは、自分が履いていて、上から見ると「違う靴のように不格好」なのです。

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街で誰かが履いているのを見ると、95良いなぁ。と改めて思うものの、いざ買って履いてみると「なんじゃこりゃ」と。履き続けていれば当然足元しょっちゅう見るわけで、そのうち耐えきれず手放すんですね。時が経って、またどこかで見かけると「やっぱり良いなぁ」と買いそうになる、の繰り返し。もしかして、これが意図的な計画で設計されていたのであれば、まさに伝説的なデザインだとは思いますが、きっと考えすぎですね(笑)。

横から見ると最高で、履いて上から見ると最低。物事は、体験してはじめてその正面が見えてくるのかもしれません。

人が使って美しい

AIR MAXは変わった例でしたが、世の中には「人が使って美しいもの」が他にもあります。そのひとつが箸。どんなに気に入ったお箸でも、焼き魚を綺麗に外して味わおうとした途端、突然視界から消える。私達は自分で食べる口元を、生まれてから今まで、自分で見たことはないのです。

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僕もプロデューサーとして関わらせていただいているSTIIKというお箸。KOZLIFEを訪れている皆様の中には使ってくださっている方もいらっしゃるかな?そんなSTIIKですが、デビューしたのが2017年、発売から6年が経とうとしています。僕もほぼ毎日食卓で使っているので、既に作り手の感覚は超えて、いちユーザーになっています。繊細な竹の箸先に26cmという長さは、自分が使ってもちろん使いやすいように設計していますが、それと同じ位「誰かが使っている所作が、美しく見えるように」デザインしてあります。あまり自分が食べている姿をジロジロは見られてたくないですが、やはり相手が美しく食べている様が視界に入るだけで、食事は美味しく感じるもの。2膳で1パッケージになっているのも、そういう背景があるんですね。箸は自分の口だけでなく、目で楽しむ機能も持ち合わせている「誰かと一緒に使ってほしい」デザインになっています。

お箸は、食卓においては1,2を争う主役級アイテムです。きちんと意志を持ってチョイスをすれば、その日から食事が激変する、そんなインパクトを持っています。

僕が数年使っている中で見つけたSTIIKの使い方としては、誰か1人に2膳(=1セット分)プレゼントするという方法。箸って1年も使っていれば、先が少し欠けたり塗装が割れてきたりします。でもそうなってしまうのは1本だけで、もう1本は大丈夫な事が多い。「それ、2膳分入っているんですけど、誰かと使って頂いてもいいですし、スペアとして1本づつ交換すると長く使えますよ。環境的にも負荷になりませんし。」と贈るときに言うようにしています。2膳入っているからといって、必ず2人で使わなくてもいいのです。

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新世代の箸デザイン

物というのは、ついつい自分が使うのをイメージして選びがちですが、それを使う姿は常に相手に見えている。子供は自分の使う箸ではなく、親が使う箸を見ている。「私もいっしょが、いいな」そんな小さな心の声を背景に、子ども用のSTIIK KIDSも開発しました。わが家の子供達も使っている中、改めて気付かされたのは、「親は自分達が使う箸ではなく、子供が使う箸を見ている」こと。まるでカラクリのようですが、箸のデザインの奥深さを垣間見た瞬間でした。

ここの所、小学4年生の娘が続けて妙なお箸の選び方をしているのを見つけました。最初は「間違ってない?」と聞いたのですが、この組み合わせが良いそう。おぉ、来たかニュージェネレーション。ついにお箸は1本づつ違う色で使う時代に突入するようです。

つづく

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和田 健司 オランダDesign Academy EindhovenにてDroog Design ハイス・バッカー氏に師事、コンセプチュアルデザインを学ぶ。 同大学院修士課程修了。大手広告代理店勤務の後、2011年 “what is design?”を理念とする(株)デザインの研究所を設立。研究に基づく新たな気付きを、個人から企業まで様々な顧客に価値として提供し続けるコンセプター。