KOZLIFE

LLFK-vol51 「偶然の日田」 ーしらない編ー

Season6「旅」「偶然の日田」 ーしらない編ー 2022年7月8日

いきなり夏がやってきました!皆さんはどこかへお出掛けされる予定はあるでしょうか?ここ2年間、僕もあまり思うように動けなかったですから、今年は結構色々な所に出掛けている気が。きっと、このシーズンが始まったのもあると思います。そうそう、最近気になっている事がありまして。それは「旅ってどうやったら上手になっていくんだろう?」と。「行き先とかもマンネリ化するし、人の多い観光地に突撃するのも…ねぇ。一体、心に残る旅の作り方って、存在するんだろうか?」なんて考えたりしています。皆さんは、旅先をどうやって決めていますか?テレビや雑誌を見てでしょうか?余裕を持って日程を組んだはずなのに、行きたい所を調べている内に行く前から予定がパンパン、なんて事もありますよね。せっかくリフレッシュのために休暇に出たのに、逆にストレスがたまってしまい、何のための旅行だったかわからなくなる。そんな事も少なくありません。何か良い旅の作り方はないものか…と考えていた矢先に、不思議な出来事があったので、今回はそのお話。

何も知らない

今年3月と少し前になりますが、KOZLIFEでもお馴染みの箸、STIIK関連の出張で九州地方へと出向いた時のこと。メンバーは小柴シェフとデザイナーの鷲見栄児さんの三名。仕事関連の段取りに関しては僕が全て手配をし、その後の予定は鷲見さんにお任せをしておりました。年上の先輩ですし、どこに行くんですか?などあれこれ聞くのも失礼にあたるので、特にお伺いを立てることはありませんでした。いよいよ当日になっても、仕事が優先、特にその話もしないまま無事に商談が終了。さて、ようやくです。「ここからどこにいくんですか?」と聞くと「知り合いがいる大分に行きます!」と、“そうだ、京都へ行こう”的なノリで鷲見さん。横を振り向けば、どこへ行くか本当に知らなかった様子の小柴さんは、目が点に(笑)。

LLFK-vol51 「偶然の日田」 ーしらない編ー

とりあえずナビが示すまま、車で約1時間。到着したのは福岡と熊本の県境にある、日田(ひた)という場所でした。全く見たことも聞いたこともない土地にいきなり連れてこられる事がなかったので、とにかく感じるままに周りを見渡します。ここはどこだ??川の中腹でしょうか、風もなく非常に波が穏やかな湖のよう。鳥たちが優雅に泳いでいます。土地勘がなさすぎてどこを見て良いのかわかりません。しばらくすると「あら〜!鷲見さん、お久しぶり〜!」と元気な声が。今夜食事をするお店「すてーき茶寮 和くら」の店長さんが歓迎してくださいました。鷲見さんは、元々お知り合いだったようですが、僕ははじめましてなのでまだ周りをキョロキョロと見回します。

LLFK-vol51 「偶然の日田」 ーしらない編ー
LLFK-vol51 「偶然の日田」 ーしらない編ー

脳が舌鼓を打つ

こちらへどうぞ〜、と案内されたお店の中は思ったより広い。和くら、倉か…。奥を覗いてみると、川辺を一望できる鉄板焼きスペース。とても素敵です。

日田の事を何も知らない僕は、最初から最後まで興味津々に店長さんやシェフの話を聞いていました。この土地の歴史から文化まで、2,3時間で一気に詳しくなりました。もちろん食事も本当に美味しかったのですが、インプットが多かったのか、旅の疲れか、あまり覚えていません(笑)。後々思い出そうと、写真を見返すと肝心の所が撮影されていない!楽しすぎたのでしょうか。

LLFK-vol51 「偶然の日田」 ーしらない編ー

いや、きっと違う。もし僕がこの店を事前に調べてあったり知っていたら、外観からくまなく撮影したり、そういう記憶の残し方をしているはず。これはきっと「何も知らなかったから」ではないかと思うのです。自分が期待するものを、得て帰ろうとしていなかったから(というかそもそも期待するものがない)、突然目の前にバーンと現れた出来事に対して、まずは体が感じようとしていた。普段だったら、ついついスマホで撮影してしまう所をしなかった。「撮影してる場合じゃないだろ」と、瞬間を逃さないようにしていたは、レンズじゃなくて脳の方だったという事になります。だから写真がないのではないかと。

記録と深い記憶

こうして考えてみると、言い表すにはちょっと難しいけれど、個人的に「旅の写真は全部ない方が良い」と思うんです。例えば、メインディッシュの牛肉ステーキの写真を後で見返せば「あの時のこれ、美味しかったよね〜!」と思い出せます。この時の自分が想像している感じを覚えておいてください。
対して、例えば今回のようにニンニクの写真だけでメインディッシュのがなかったとします。肝心の写真がなければ、人はその情景を思い出そうとしますよね。ステーキはこれくらいの色だったか…。塩だけで、口に入れた瞬間に広がる甘みと旨味の強さ…その時に窓から見える景色…あの時は満月だったなぁ…。などなど、その瞬間の音から香りまでを脳がフル回転で思い出そうとします。
前者と後者、どちらが濃い思い出でしょうか?きっとどちらも良い思い出には違いないのですが、僕は、写真があることで、失っている物もあるんじゃないかと思うのです。撮影をしてしまうと、視覚ばかりが優先されて、記憶が浅いままで止まってしまっている感じがします。自分の感情が情報になってスマホに格納されてしまうイメージでしょうか。なんかあまり良い気はしません。

今回の日田は、今年で一番深く記憶に刻まれた旅でした。その理由は紛れもなく「何も知らずに訪れたから」。鷲見さんや皆さんに選んで頂いたからこの感動があるので、そこには感謝しかありません。行き先も知らされずいきなり訪れる旅は、ガイドブックを見てから行くそれとは全く別物で、予想以上に素晴らしい思い出を生みます。そして深い記憶を作ってくれます。今回は、偶然にもそれに気づけて本当に良かった。でも、まぁ、そんな事めったに起きないですよね。それなら例えば、一緒に行きたい誰かと「旅のプレゼント交換」をしてみても面白いかもしれません。行き先は当日まで秘密にして。

日田の旅、実はここで終わりではありません。和くらさんでご飯を食べている間、どこに泊まるのか、次の日何をするかも、全く知らされていなかったのです。

つづく

LLFK-vol51 「偶然の日田」 ーしらない編ー

和田 健司 オランダDesign Academy EindhovenにてDroog Design ハイス・バッカー氏に師事、コンセプチュアルデザインを学ぶ。 同大学院修士課程修了。大手広告代理店勤務の後、2011年 “what is design?”を理念とする(株)デザインの研究所を設立。研究に基づく新たな気付きを、個人から企業まで様々な顧客に価値として提供し続けるコンセプター。