好きと嫌い。シーズン5ではこの2つの相反する感情をテーマに書いてきました。人間は感情が絶えず変わり続ける生き物です。“好き”と“嫌い”は紙一重で、そこを行ったり来たりするのが人というもの。9回を終えて感じたのは、まさにそこでした。KOZLIFEさんというネットショップにはちょっと不向きなテーマかなと思い書き続けてきましたが、今こうして振り返ってみると、自分の好き嫌いをハッキリさせることで、色々な物事が選びやすくなる気がするんですね。
例えば、ずっと好きな物だけを食べているとマンネリしてくるように。前までは嫌いだったけれど…今回は冒険してみよう!そう思って手を出した物事が、意外に長く続く「自分のすきなもの」になったりします。さてシーズン5、最後のお話しは「ひとり」について。
「一年生になったら」という歌があります。
“一年生になった〜ら♪ 一年生になった〜ら♪ ともだち100人できるかな♪”
ここ数年、この歌が物議を醸しているのはご存知でしょうか。子供の頃は何の気なしに口ずさんでいたのですが、この歌には友達がたくさんできるのは「良いこと」と暗黙の了解があると言うのです。そして友達ができないのは「悪いこと」と意識させる圧力が隠れていると。学校では“クラス全員と仲よくしなければ”という目でクラスメートを見るようになり、「友達が多いのは良いこと」が、子供を追い詰めていると。これは少々偏った見方かもしれませんし、そもそも「友達をつくろうね!」位の気持ちで、この歌には悪気はないでしょうけれど…。
しかし、この歌には子供だけではなく、大人も含めた現代人の悩みが隠れているように思えてならないのです。フランスの小学校では、孤独である事は人と違う個性の象徴で、良い事として褒めるそうです。友達が欲しいという子には、「たくさん作ろうとせず、1人でいいから、誰か本当に自分の気の合う友達を見つけられたら幸せだね。」と教えるそう。逆に、友達が沢山いる人は、常に相手に合わせているので、どこか信用ができないという見方もあるようです。
そう考えてみると、日本では、友達が多い方が勝ちのようになっている節は否めないですよね。孤独=寂しさの象徴のようにいつの間にか捉えてしまっている自分がいます。でも、孤独って寂しいものなのでしょうか?
僕は、1人で外食をする事が全くできない男でした。頑張って牛丼屋さんが精一杯。カフェでコーヒーを飲む事すら無理。理由は言葉で表現しづらいのですが、強いて言えば、恥ずかしい・落ち着かない感じでしょうか。そんな事を会社の同僚に話してみると、「回転寿司とかどう?周りが結構おひとり様で来てるし、食べてすぐ出てっちゃうから気にならないよ。行ってみたら?」とアドバイスされました。
渾身の勇気を振り絞って、ランチタイムの寿司屋の暖簾をくぐってみました。カウンターだけの狭い回転寿司で、確かに周りは1人客ばかり。レーンを回っている皿を取り、とりあえず食べ始めます。すると不思議な事に、以前のような居心地の悪さがないのです。“あれ・・・これ全然大丈夫だぞ。”と心の中でガッツポーズまで。恥ずかしながらも「すいませ〜ん、エンガワひとつお願いします。」と板前さんに頼んでみたり。
「今までより、集中して味わえる気がする。」
「思う存分悩めるなぁ」
「1人だと、自分のペースでゆっくり食べられる!」
「これもしかしたら、寿司は1人に限るんじゃ?」
こんな事を思いながら、周りのお客さんが代わる代わる出入りするのを脇目に、結構長居をしてしまったのを覚えています。鶴の一声で1人飯の扉を開いてしまった僕はそれから、色々な店を訪れるようになりました。誰かと一緒に行くのはもちろん楽しいですが、料理と1対1で対峙する勝負感がやみつきになり、今では1人の方がデフォルトに。そして、つい先日あの寿司屋を数年ぶりに訪れてみたのです。そこに流れていたのは変わらない、おひとり様の楽園的な時間でした。
幾度となく1人の時間を作ってきて気づいた事があります。それは自分だけの居場所を見つけられるという事。そんなに沢山ある訳ではないですが、この景色と匂いになぜか癒されるとか、何回来てもこの席に座ると落ち着くなど、もしかして引力で引っ張られているんじゃないかと勘違いしてしまうような場所に巡り会います。
確かに友人と一緒に過ごす時間は楽しい。でも、そういう場面では友人との時間に気を使い自分のアンテナを下ろしているので、その瞬間を見逃してしまうんです。
なかなか自分の時間を作れない方もいらっしゃると思いますが、例えば週に1回数時間でも良いので、近所に出かけたり1人の時間を作ってみるとあ「あなたの大好きな場所」に巡り会えるかもしれませんよ。僕もちょっとひとり旅に出てみようと思います。
Season5 「好きと嫌い」おわり。
和田 健司 オランダDesign Academy EindhovenにてDroog Design ハイス・バッカー氏に師事、コンセプチュアルデザインを学ぶ。 同大学院修士課程修了。大手広告代理店勤務の後、2011年 “what is design?”を理念とする(株)デザインの研究所を設立。研究に基づく新たな気付きを、個人から企業まで様々な顧客に価値として提供し続けるコンセプター。