「ご飯中はテレビを見ないの。」子どもの頃にどれだけの回数耳にした言葉でしょう。好きなアニメが常に放映されていた訳でもなく、ご飯と天秤に掛けるほど大切な存在でもないのに。テレビを見ること自体が好きだったのでしょうか…はたまた依存症?なぜあんなにテレビに夢中になっていたのか、あまり思い出せません。あれから30年、テレビはスマホになり、番組は好きな動画を選んで見れるYoutubeへと最強の進化を遂げました。そして今、あの頃の親の気持ちが痛いほどよく分かる(涙)。今回のLLFKは、私達が酷使している「目」について探っていきたいと思います。
人間は五感からそれぞれ情報を得ています。中でも視覚器官からは、全体の8割もの情報を得ていることが様々な分野の研究により分かっているようです。例えば、音を聞くことから得られる情報量が8000ビット/秒であるのに対し、目でものを見ることは430万ビット/秒と、実に聴覚の600倍近い情報が得られているそう。※1 まさに、百聞は一見に如かず。ヒトがいかに視覚を中心に生きているかがわかります。
(※1 出典:ボシュロム・ジャパン株式会社「目の病気・目の症状)
「みる」がこれだけの情報量を知覚するとしたら、それと同じだけ「みられて」いる。日々どれだけの目に見られているんだろうと考えると、少しゾッとしますね…。そんな事を考えていて思い出したのですが、昔何かの機会に着ぐるみを着たことがあります。それを着ている間は、いつもとは違う自分になったような気がして、陽気に振る舞ったり・面白いポーズも恥ずかしくなくて、人を楽しませたいと言う気持ちで一杯になったのを覚えています、暑かったですけど(笑)。
また世の中には、着ぐるみセラピーという療法があるようです。実際に着ぐるみを着ることで頭を真っ白にし、人に喜んでもらう仕事をしたり、ハグをするなどのリアルな人とのふれあいから、信頼や愛情・人の役に立ちたいという心を実感できるそうです。どう見られるか?を一度遮断することで、心の武装を解除し、開いていく。とっても意義のある取り組みだと感心をしました。
随分前から変わらずにやっていることがあります。それは「目を持ち歩くこと」です。目と言っても目玉を外して持ち歩いている訳ではなく、カメラを持ち歩いてストリートスナップをするという趣味。やり方は、お目当てを設定せずに散歩をし、気になった情景をただ撮って歩くだけ。こだわりがあるとすれば、スマホではなく機動性に優れたカメラを別に用意することでしょうか。少し前まではフィルムカメラも使っていたんですが、今はGR3というコンパクトデジカメを愛用中。手のひらにすっぽり収まる小ささながら、デジカメの中でも、かなり味わいのある描写力があり、アナログ寄りの写真に仕上がるのが気に入っています。
歩いていて「あっ」と少しでも気になったら3秒以内に撮り終える。天気の良い日であれば歩く足を止めずに。連続シャッターにしておけば数枚がワンシャッターで撮れます。カメラもケースなどには入れずにポケットにそのままダイレクトイン。撮った写真の確認もなし。ちなみに、僕なりのルールは「できるだけ、何も考えない。」こと。目が少しでも何かを見つけたら撮影します。これには理由がありまして、意味のない写真ほど、良い写真(いわゆるアタリ写真)が多いのです。
“カラフルな廃墟” “枝豆すくい放題” “いきなり雨が降ってきた”撮る物を決めてシャッターを切ると、それが一番良く見える写真をどうしても撮ろうとしてしまいます。そうではなく、目をパッと開いて見えた光景をそのまま真空保存する感じでシャッターを切ります。今ここを歩いているのは、記念撮影をするためではなく、歩いて場所の空気感を楽しむことですから。
“撮り合いっこ” “ぐるぐる交差点”そんな感じで撮った写真を見ると、様々な偶然に出くわします。誰かがこちらを見ていたり、複数の人が同じポーズをしていたり、イメージとは全く違う写真が撮れていたり。そして、数年後見返した時に、全く予想しなかった意味を発見したり。きっと家に帰って撮りためたデータをパソコンやタブレットに転送するのが楽しみになると思います。意味のない写真が意味を持つ瞬間を是非体験してみてください。
旅行先も良いけれど、個人的にお薦めなのはいつもの環境です。中でもイチオシは、自分の家の中を雰囲気のあるカメラで撮ること。持っている製品やインテリア、ベランダの何げない風景を撮影してみてください。
目に親しんだ情景は、わざわざ写真に撮るまでもないかもしれません。でも、騙されたと思って撮ってみてください。きっと数年後に「あぁ、これ持ってた!」とか「こんなレイアウトしてたっけ?」と話題が絶えなくなるはずです。家族での夕食の場であれば、是非子供さんに見せてみてください。きっとYoutubeそっちのけで楽しんでくれると思います。
つづく
和田 健司 オランダDesign Academy EindhovenにてDroog Design ハイス・バッカー氏に師事、コンセプチュアルデザインを学ぶ。 同大学院修士課程修了。大手広告代理店勤務の後、2011年 “what is design?”を理念とする(株)デザインの研究所を設立。研究に基づく新たな気付きを、個人から企業まで様々な顧客に価値として提供し続けるコンセプター。