今はまさに変化の真っ直中。働き方が変わったり家族で過ごす時間が増える中、「今年は、色んな意味で自分を見つめる良い機会になっています。」なんて良く見聞きをしますが、具体的にどうやってそれを実感しているのかはあんまり語られていないように感じています。個人情報ですしね。
経済活動というと、お金を稼ぐ方に主眼がいきがちですが使う方にも結構気を使って行かないといけないんじゃないかと思うんです。つまりは、どんな物達と一緒に生きていくか?そのチョイスの繰り返しで、人生はすこしづつすこしづつ緩やかなカーブを曲がり、気づいた時には全然違う生活になっている。物を使うことも歴然たる自分作りのひとつだと。連載を通して少しでもより具体的なメッセージを皆さんにお届けできればと思っています。
少し前の話になりますが、仕事部屋にエアコンがなかったので購入し業者の方に取り付けてもらいました。手早く完了したものの、よく見てみると、なんだか取り付け位置が下すぎて圧迫感が凄い。実際には位置を確認してから施工するらしいのですが、何故かそれがなかったので納得がいかず販売店に問い合わせた所、後日付け直しをする事となりました。
やっぱりちょっと低い再工事当日、Mさんという別の方がやって来ました。自分のミスでもないのに深々と謝って頂き、作業を開始。「なんだか申し訳ないですね。(僕)」なんて話しながら時間が過ぎていきます。エアコンには相当詳しい方のようで、色々と豆知識を教えてもらいながら天井寄りに再取り付けが完了。
エアコンは、掃除がしやすいように低めに付けるのが通例だったようですが、最近は機械自体が大型化しているので天井近くに付ける方も増えているとのこと。そちらの方が部屋が広く見えますしね。
Mさんの仕事っぷりは完璧に近く、僕も嬉しくなってしまい最後に名刺交換をしました。すると「デザイン関係の方なんですね!実は僕、大工の棟梁もやってまして、近々会社を作ろうと思っているので名刺とかロゴとかご相談しても良いですか?」とMさん。もちろん!と快くお返事をしましてその日は終了。頂いた名刺の裏には”いかなる仕事も相談に乗ります。誠意をもって対応いたします。”とありました。
7月17日の「スペースをあけよう」でテレビを床置きしたという話を書きました。使った感じは悪くなかったのですが、長時間見ているとやっぱり首が痛くなってくるので、熟考の結果、壁掛けをする事に決定。業者に頼むと結構金額もかかりそうなので、ダメ元でMさんに聞いてみようと思いメールをすると、即返信があり「やりますよ。」と頼もしい言葉が。お礼も兼ねて電話をすると「和田さん、これはあくまで御提案なんですけどね。壁掛けの費用は頂かないので弊社のロゴと名刺を作っていただけないでしょうか?」とお願いされたのです。一瞬断ろうかと迷いました・・・が、これはきっと何かの縁だとビビビっときたので、直感に任せ引き受ける事にしました。
工事当日。僕はデザインを準備し、工事に来て頂いたMさんと助手の方2名にプレゼン。気に入っていただけたようで、あとは社内で検討することに。そして、そこからテレビの作業にバトンタッチ。前回同様テキパキした作業を眺めながら「こちらから何かをして、それから相手にしてもらう。なんか変な感覚だ・・・」なんて考えていました。スッキリ壁に取り付けられたテレビは圧迫感がなく、ダイニングテーブルから見てもとても見やすい位置に。ケーブルはテレビの裏から壁の中を通り下のコンセントプレートに集約。
今はコンセント型のHDMI端子もあるので、ゲームなども直接コンセントにケーブルを差して動くようにしてもらいました。そして恒例の目隠しはポスターフレームで。
この気分の良い感覚は何なのだろうか?お金を貰ってする仕事とは少し違った感覚です。自分の得意な事で相手が喜んでくれ、自分の苦手な所を相手が助けてくれる。僕のしたサービスの方が高いとか、相手のしてくれた事は価値が合っているだろうか?とか、そういう事を考えるのは愚問。単純に相手のしてくれた事を嬉しく思い、それに恩返しをする。シンプルに信頼関係だけがそこにある。
昔から仕事においては、あまり物々交換のような事はしないように避けていました。自分のやっていることの価値がわからくなってしまうのと、割となぁなぁになってしまうケースもあるのが理由です。
でも、時代が変わってきたんだと。今までは物々交換ができることよりもお金を稼げる事の方が優れていると信じていました。が、今はそうとも限らない。それは、物々交換ができるということは、自分の得意な事があり、それで誰かを喜ばせられるという事。すなわち「そこには人と差別化できる自分がある、自分の得意な事でそこに存在している」という証拠ではないでしょうか。
現代生活にはお金は必要ですから、それを否定はしたくありません。ただお金ばかりを気にして送る人生は、少し寂しい気もしています。誰かが喜んでくれる特技をひとつでも良いから持っていることが、自分をお金を稼ぐのとは「ひとつちがう違う階層」に移動させてくれる。そこに注目すべきなんじゃないかと。別にレベルは関係ないです。料理でも、ガーデニングでも、買い物術でも、何でもいいと思います。物々交換できる位の事ができれば、それと同じ位の嬉しい事が自分に必ず返ってきます。それってお金というツールが介在しない、とっても純度の高い「豊かさのコミュニケーション」ではないでしょうか。
つづく。
和田 健司 オランダDesign Academy EindhovenにてDroog Design ハイス・バッカー氏に師事、コンセプチュアルデザインを学ぶ。 同大学院修士課程修了。大手広告代理店勤務の後、2011年 “what is design?”を理念とする(株)デザインの研究所を設立。研究に基づく新たな気付きを、個人から企業まで様々な顧客に価値として提供し続けるコンセプター。