KOZLIFE

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Season1「時間」 タイムトラベルの方法2020年6月5日

KOZLIFEでお買い物中の皆さん、こんにちは。良いものは見つかりましたか?今年の春は、お花見もできず長かったのか短かったのか、家にいる事がほとんどでしたし、何だか時間の感覚がおかしくなってしまいましたよね。非常事態宣言が解除され、生活も少しづつ元に戻っていくのでしょう。この数ヶ月は僕にとって、非常に色々と考えさせられる事の多い期間でした。「時間」というテーマで6回に 渡り書いてきましたが、今回でこのテーマは一旦おしまい。最後に見つけた、僕なりのタイムトラベルの方法をちょっとお話したいと思います。

3.11のiMac

遡ること10年弱、忘れもしない東日本大震災のあの日。僕は借りたての恵比寿の新事務所にて遅めの昼食を食べ終わった所でした。修理に出していたiMac(パソコン)を丁度ヤマト運輸のドライバーさんが、「ここでいいですか?」とミーティングテーブルの上にポンと置いてくれ、よし今日はセットアップをしてしまおうと意気込んでいた30分後の14時46分・・・。築50年近い古ビルは揺れに揺れ、身一つで外に出るのがやっと。道路の脇の空き地に皆が身を寄せ合い、電柱にしがみついて叫んでいる人がいるのを覚えています。その時感じた感覚、「地球が壊れるかもしれない。」一瞬ですが、その恐怖は今でも覚えています。少し揺れがおさまった瞬間脳裏によぎったのが「あぁ・・・iMac・・・・」でした。

LLFK-vol06 2011.03.11 14:04 の写真

ダイニングテーブルのど真ん中に、梱包を解いたその状態のままで置いてきてしまったのです。地震が来るなんて到底考えてもいませんから。床に落ちて画面がバリバリに割れている光景が容易にイメージでき、もうだめだろうなと恐る恐る事務所に戻ってみると・・・・・・・なんと、テーブルギリギリまで動いてはいたものの、落ちていなかった!倒れてなかったのです!本棚に飾ってあったガラスのオブジェなどは割れて粉々になっていましたが、届いたばかりのiMacは無事。「やるじゃないか!」と胸をなでおろしたのを今でも覚えています。

それから中身を何回もチューニングしながらも延命を重ね、今こうして文章を打っているのもこのパソコン。あの時壊れなかった強運は10年間僕の仕事を支えてくれました。パソコンの寿命からするといつ壊れてもおかしくないのですが、このiMac君は僕にとっては験担ぎ的な存在で、新しくするタイミングを失いながらも未だに現役で活躍してくれています。

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八百万の神

日本には古くから続く、“八百万(やおよろず)の神”という考え方があります。昔から日本人は山や海、石ころ一つにまで神が宿っていると信じ、時には恐れていました。キリスト教では人間が生物のピラミッドの中でも頂点に君臨するという思想に対し、当時の日本人の考え方は人間は八百万の神の下に位置していました。田んぼの神様、トイレの神様、台所の神様など、米粒の中にも神様がいると考えられてきたのです。「ご飯を残すと、バチがあたるよ。」というような言葉も多く存在します。反対に欧米にはこのような感覚はありません。事実、ヨーロッパに住んでいた時に、この話をした所全く理解してもらえなかった事を今でも覚えています。

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One year after using Ena

昨年10年ぶりに引っ越しをしました。その際にKOZLIFEさんから引越祝いとして EnaのプレートEnaのプレートを一式頂きました。写真はその時の物ですが、その日から我が家の食卓にはこのグレーのお皿達が毎日登場しています。新品の時は重ねた姿など、素敵な見え方だなと気に入っていたのですが、使っていくと色々な事に気付きます。

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プロダクトは半年もすると、買った時の感触は薄れ、生活に馴染んでくるので無意識に日常の一部となります。実はそれが1番プロダクトが「素(す)の状態」であると、色々な物を使ってきた結果分かってきました。これは個人的な見方ですが、Enaのプレートはついつい和食やアジア料理が食べたくなるお皿です。パスタはこのお皿で食べた記憶があまりなく、どちらかというと木のお箸や木のスプーンなど、マットな質感との兼ね合いもあり、木の道具でコツコツ音を立てながら食べるのが心地よいお皿だなぁと感じています。この間は少し暑くなってきたので三重県・伊勢名物の手ごね寿司をカツオで作りました。ガリと大葉を刻んだ酢飯、醤油とみりんの甘辛ダレのコンビネーションが絶妙に食欲をそそる一品。

1年使い続けたEnaは新品の様相が取れてきて、今凄く良い状態です。そしてちょっと思い返せば、引っ越した時の記憶を蘇らせる事ができる。物にまつわる思い出って、色褪せない。

Sunset Dining Chair

ダイニングで長時間座れる椅子というのは、なかなか見つける事ができません。長時間座るには、クッション性はもちろんの事、姿勢を色々と変えられる形状も大切です。僕が今使っているのは、クリストフ・ピエというデザイナーが作ったSunset Diningという椅子。実はこの椅子は1999年創業、名古屋で当時カフェブームの火付け役だったn.v.cafe*というお店から譲って頂いた物なのです。惜しまれながらも2005年に閉店しましたが、おそらく5万人位はこれに座ったのではないでしょうか。カフェで何時間でも喋っていられる、本当に座り心地の良い椅子でした。譲って頂いた当時は、デザイナーの名前も知らず、ただカフェの思い出と共に使い続けていました。

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20年近く経ちますから、さすがに思い出も薄れ、シートもボロボロになってきました。引っ越しの際に処分しようかとかなり悩んでいた所、運良く張り替えてくださる職人さんが見つかり、新品のような3色の椅子に生まれ変わりました。今でも毎日座っていますし、4時間くらいであれば全然平気。この椅子ともまだまだ長くなりそうです。

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思い出はタイムトラベルできる

ひとつ不思議に思っている事があります。思い出深い物を手に取って頭をよぎらせると、色褪せることなく鮮明に当時の情景を思い出せる。人間の記憶は時間と共に薄れていくものですが、これに関しては例外・・・僕だけでしょうか?時間は全ての人に平等に与えられ、進めたり戻したりはできない。でも、悲しかった事も嬉しかった出来事も、その時の体験が物に宿っていると、いつでもそこに戻れるのです。まるで時間の概念がなくなってしまったかのような。タイムトラベルをしているような。

思い出の詰まった物達はもしかすると、タイムマシーンなのかもしれません。物があれば、いつでもそこへ戻る事ができる。そしてそんな物達に囲まれて生活していくと、何となく「自分らしいってこういうことかな。」と感じられる気がしてきます。一緒に過ごしてきた仲間のように、そこには八百万の神が宿っているのかもしれません。あなたの周りにはタイムマシーン、ありますか?

つづく

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和田 健司 オランダDesign Academy EindhovenにてDroog Design ハイス・バッカー氏に師事、コンセプチュアルデザインを学ぶ。 同大学院修士課程修了。大手広告代理店勤務の後、2011年 “what is design?”を理念とする(株)デザインの研究所を設立。研究に基づく新たな気付きを、個人から企業まで様々な顧客に価値として提供し続けるコンセプター。