プロフィール
藤田 和人(金屋本町 山善)
鋳物職人。
加賀二代目藩主前田利長公が高岡に呼び寄せた、鋳物師七人衆の子孫18代目。400年続く家業を継ぎ、藤田家の屋号「山善」の歴史の誇りとともに、今の時代だからこそ輝きを放つ、古き良き鋳物をつくり出している。趣味はDIY、旅行、温泉、スノーボードなど。
紡がれてきた技、
400年の重みと深み
藤田にとって、金屋本町に生き、家業を受け継いだことは宿命。そしてそれは、長き歴史の中で失われることのなかった匠としての技を、生涯を通じて継承せねばならないことを意味する。
鋳物職人としての技術は、一朝一夕で身につくことは決してありえない。ましてや「山善」の屋号を背負う者には、常に鉄や土と向き合い、熱と対峙し、色に、手触りに、言語化できないレベルで心血を注ぐ日々が続く。藤田は言う。
「五感すべてが仕上がって、ようやく職人なんですよ」
その作品の深い味わいには、受け継いだ者ならではの、覚悟と強さが垣間見える。
己をつくりあげる
鋳物づくりの技は、先達から現場で学ぶものであり、そこにはマニュアルも取説もない。
口伝だけの継承とは程遠い、現場での「闘い」が藤田を山善の職人に鍛え上げてきた。
若き頃は学びの日々。
だが、藤田も先代の職人たちも、摂氏1500度を越える鉄との格闘の中で同じ思いを持ち続けた。
「誰かの教えだけでは足らない」。いかに、自分なりの努力と、自分だけの経験を絶えることなく積み重ねられるか。鉄も銅もアルミも、生きている。常に同じではない。現場の温度も湿度も一定ではない。
その中で最善を見極める。考えることは多い。考える前に動くべきことは、さらに多い。作品づくりが、職人としての己をつくる。そうでなければならない。
そして、そんな日常には、匠の道を邁進した者ならではの、甲斐がある。
作品への想いは
人への想い
鋳物をはじめとした、高岡の伝統工芸品も大量生産の時代を経て、こだわりある逸品としての存在感を求められるようになってきた。
藤田はそんな時代の奔流に身を置きながらも、伝統工芸品の生活必需品としての要素に、厳しくも温かい眼差しを向けている。
だからこそ、藤田が精魂を込めた作品の数々は、そのまま手にする人に鋳物の良さや、あたたかさを伝えている。
「魯山人好み置行灯シリーズ」と「与次郎灯籠」は、特に今の人々に愛される作品だ。
「父親の時代から受け継いだ秘伝の技で仕上げますし、何よりお客様がとても喜んでくれますからね。自分でも愛着はありますよ」
和み。癒し。おそらく、400年前は日常的に耳にするものではなかったであろうこんな言葉が、人の支えとなる時代になった。
そこに人への想いがあることが、良き鋳物づくりには欠かせない。藤田はそう信じている。
仲間と歩む、伝承への道
次の世代に高岡の鋳物技術を残していくこと。それは藤田の、既に始まりつつある重要なミッションだ。
そして、それは決して一人ではなしえない。伝統工芸は、たった一人の卓越した職人が生み出すものとは限らないからだ。
ごく一般的なイメージと、最も乖離するのは、そこかもしれない。
「特に鋳造の仕事が一人でできるはずがない。真夏なんてとんでもない暑さの中で、何人もの人間が大量の汗をかいて頑張るんです。一番大切なのは、人同士のつながりです。信頼関係なんです」
そう言いきる藤田の想いは、鋳鉄のように熱く、そして優しい。藤田の友人が古い鋳物工場を一大決心で引き継ぐことを決めたとき、彼から技術の存続に協力して欲しい、と頼まれたことがある。
自身の技術と、何より自身を信頼してくれる者に対し、山善の藤田和人が迷いなど見せるわけはなかった。これからさらに力強く、仲間たちとともに技術を共有し、次の世代へ教えていく。「良き作品づくりは、山のように善きことを人々にもたらす」。藤田はそれを、誰よりも望み、誰よりも知っている。
高岡市 金屋町
千本格子づくりの家々と、石畳の道が美しい、富山県高岡市金屋町。
ここは、2012年に鋳物師町として、全国初の国の重要伝統的建造物保存地区に選定されました。
ここで鋳物産業が栄えたきっかけは、400年以上前、加賀藩藩主前田利長が、城下町の繁栄のために領内より七名の鋳物師(鋳物師七人衆)を呼び寄せたことです。
そこから鋳物場が開設され、多くの特権を与えられ保護されたため、高岡鋳物の数々が生み出される発祥の地となったのです。
高岡市 有礒正八幡宮
近隣にある有礒正八幡宮(ありそしょうはちまんぐう)は美しい境内が人気を集めるフォトスポットです。
この神社は、金屋町の安寧と鋳物をはじめとする金属産業の発展を祈る「ふいご恵比寿講祭」があるなど、鋳物との関わりが深いことで知られています。
鋳造工程
※一般的な鋳物の工程です。職人や、作品によってこの手法・手順等が異なる場合があります。
01
造形
基礎となる「鋳型」を作成する。基本的には上型、下型、中子(なかご)型を用意するが、特に中子型は空洞となる部分を形成する重要な型である。
これを安定した配置にし、空洞を正常につくる際は、洗練された技術を要する。
02
金吹き・溶解
鋳型に流すための金属(溶湯)を溶かしていく。流す金属に炭素などを入れる成分調整、温度調整が成否を決める。灼熱との格闘が求められる重要工程。
03
金吹き・鋳込
溶湯を型に流す前に、耐火・耐熱にすぐれた取鍋(とりなべ)に移す。それから、土を敷き詰めた地面に配置した鋳型一つ一つに丁寧に流し込んでいく。溶湯はそれぞれの鋳型の空洞に入なければならず、流し込む(注湯)の速度や加減にも高い技術を要する。
04
金吹き・後処理
鋳型に流した溶湯が時間をおいて固まると、地面においた鋳型を掘り返すようにして取り出していく。取り出したものには、余分なモノや土・砂が付着しており、これを工具で丹念に除去していく。
05
仕上げ
各製品の検査を行う。サイズや、空洞の出来、外観などを職人の基準を基に調べる。これが完了すると、製品に応じた塗装を一個一個行う。