湯川酒造店

木曽川の源流の里といわれる信州・木祖村。
「湯川酒造店」は、飛騨街道奈川道の分岐点としてにぎわった薮原宿の一隅にあります。
創業は慶安3(1650)年。およそ標高1000メートルという高地で、木曽の良質な水と信州の米を使い、酒造りを続けている。

ライン


  • 瓶詰め
  • 海の魚より山の幸、土地柄が醸し出てくるような酒を

    「酒蔵としては、伝統や技術を受け継いでいける状況を整えていくことが大切。地元の味が踏襲されていくことと共に、技術も確立していくのだと思います」と話すのは16代目当主・湯川尚子さん。2014年に長野県百年企業<信州の老舗>表彰を受け、伝統について回顧したという。

    「うちのお酒は海の魚より山の幸と合わせたほうが断然おいしいと感じます。そういう土地柄みたいなものが、じわじわと醸し出てくるようなお酒を造り続けることが、伝統の一つなのかな」

    多くの人に愛される酒は、時代によって変わっていく。そう考えると、伝統を“守るもの”と捉えるのではなく、恐れず変化していくことが必要なのかもしれない。

  • 造り手も売り手も飲み手も幸せになる酒造り

    原料の米栽培は、酒米の好適地を求め、松本平や南木曽町、長和町、東御市など県内各地で行っています。

    「契約栽培するなら木曽で、という固定概念があったんです。でも、この土地で酒米をお願いするのは収量的にも難しいんです。造り手も売り手も飲み手も、皆が幸せになるお酒を造りたいのに、農家さんに無理をさせるのは違う気がして」

    「燦水木 特別純米酒」は木祖村で採れる一般米だった「ヨネシロ」で仕込んでいる。県の食用奨励品種から外れ、食用としてはあまり作られなくなってしまっていたが、「逆に酒に向いているのでは」と使い始めた。今では、村の人たちにとって“おらが村の酒”として愛されています。

  • 酒米
  • 杜氏
  • 環境・原料・技術。それぞれを活かす

    標高が高ければその分、沸点は低くなる。厳冬期は温度や圧力を満足に獲得しにくい。その土地の環境を読むことが必要不可欠になってきます。

    「環境というものは、地酒たる所以に大きく起因するもの。同じ10℃を獲得するためにも、環境によって酵母の動きも変わるので、当然違うお酒ができます」

    もちろん米の出来も影響を及ぼす。大まかな傾向を情報として得て予測を立てつつ、杜氏自ら農家へ出向いて話を聞いて判断することも。

    「米の出来を活かせるかどうかという技術的な要素は大きい。それが日本酒の面白いところでもあると思っています」

  • 二つの銘柄でコンセプトが明確に

  • 「木曽路」は、名前そのものが地域を表すお酒です。そのイメージの強さもあり、地域の特性を謳う地酒が並ぶ中、あえて地域性を出すことに意味があるのかと、ネガティブに考えていた時期もあったという。転機は外国人からの声でした。

    「山の中で、水がきれいなところが魅力だと言っていただく事が多くて。今更ですけど、原点回帰でこの土地の素晴らしさに気づきました(笑)」

    新銘柄として「十六代九郎右衛門(くろうえもん)」を出したことも大きい。銘柄が二つあることで「木曽路」はより地域に寄り添った酒として、コンセプトが明確になった。

    「スーパーや道の駅など、オープンに販売している分、情報が商品力になります。土地、素材、そして人の思いが感じられるようにしていきたいですね」

  • 湯川尚子さん