長い日照時間と、きれいな水。そして強粘土質で「ねばっちょ」と呼んでいる土壌。「この土地の自然が宝なんです」と代表取締役の柳澤謙太郎さんは笑顔で話す。
コシヒカリの栽培としては、最も標高が高い部類の地域。夏でも夜は気温が下がり、昼夜の気温差が大きいため、平均気温も低く、刈り取るのは10月に入ってから。稲穂が出てから刈り取るまでの期間が長く、その分、しっかりと太陽の光を浴びて育つ稲は健康そのもの。その分、農薬もあまり使わなくてすむんです。
「僕がお米を作っているわけじゃないと思っています。言ってみれば、稲が生長する手助けをしているだけ。ストレスを感じないような環境を用意することが大切です」
太陽と大地では物理的な面と化学的な面で環境を整えています。前者でいえば、水はけの良さや土の硬さ。後者でいえば、土壌分析をして足りない栄養を補い、微生物の動きを止めずに土地が持つ本来の「植物性」を活かせる状態を保っています。「お米を作った分は出ていってしまうので、その分は補給しますが、田んぼにできるだけ何も持ち込まず、何も持ち出さないでいたいんです」
もう一つ、特徴的なのは貯蔵方法。「うちは籾の状態で貯蔵します。玄米にすると、服を脱がせるようなものだから、どうしても劣化してしまう。籾だと生きた状態なので、いつでもおいしいんです」と柳澤さん。ただし、「新米の感動がちょっと薄れちゃうのが難点ですが」と苦笑する。
柳澤さんが家業を継いだのは26歳のころ。大学生からサラリーマン、合わせて8年間を東京で過ごした。「惣菜を作る仕事をしていたんですが、4年もやっているといろいろ考えることも出てきて。“本物”に携わりたいと思うようになって、自然と地元の素晴らしさに改めて目がいくようになりました」と当時を振り返る。
法人化の際は、“農”の可能性を広げていけるようにと考え、大きなイメージで社名を付けた。根幹にあるのは、 “命をつないでいくこと、食を提供すること”。「農業にとって本来のあるべき姿とは何かを、もう一度見つめ直したい」と、社員とも話しているという。
現在採れる米の量は2000俵(120トン)ほどで、決して多いとはいえない。「僕らのような規模で生き残っていくためには、ものに付随する情報も価値として一緒に届けないとダメなんです」。“顔”だけではなく“田んぼ”まで見える米として、どこの田んぼでいつ、誰が、田植え、収穫、精米したかまでわかるようにしています。ほかに、飯米だけではなく酒米や米粉、さらには大豆などほかの食物も手掛けるなど、活動の幅を広げています。
会社の理念「おいしいを最大化する」には、量を増やし、質を高め、そして将来に渡って安定供給していくという思いが込められている。「今、38歳なので、あと30回くらいしか作れないんです。たった30回ですよ。もう、1年1年を大事にしながら進んでいくしかないですよね」