中善酒造店

木曽谷の中心、かつて中山道の宿場町として栄えた木曽福島。
「中善酒造店」は、かつて御嶽信者行列で賑わいをみせた旧御嶽街道沿いにあります。
創業は慶応元(1865)年。地元の食べ物に合う、地元の人たちに愛される酒を目指し、酒造りの道をひたすら突き進んでいる。

ライン


  • 中乗さん
  • 地元の民謡から名前をもらった酒「中乗さん」

    木曽には、地元では知らない人はいないという民謡「木曽節」と、それを歌い踊る「木曽踊り」があり、今でも慶事の場で盛り上がれば木曽節が歌われ、小学校の運動会の最後には静かに木曽踊りを踊るという。

    「中乗さん」は木曽節の冒頭の一節「木曽のナア~なかのりさん」から名付けられた酒。大正~昭和にかけて地元PRに尽力した伊東淳町長が“名付け親”だそうです。

    「目指しているのは、肉体労働で疲れた体や、中山道を歩く旅人を癒せるようなお酒。華やかさや、自己主張はしなくていい。いつまでも飲み続けられるようなお酒です」と常務取締役・南俊三さんは話しています。

  • 県産米のみを使った酒で、魅力を伝える

    木曽は日照時間が短く、もともと米作りが難しい場所。

    「地元農家の接点もなく、苦労しました。農家の皆さんにとっても、新しいことを始める不安や抵抗感があったんだと思います」

    2008年春からは上松町で約50年、米を作り続けていた南さんの義父・一男さんの指導の下、自分たちで米作りを始めました。

    酒米作りのアドバイスを求めた松川村の「ファームいちまる」との出会いも一つの転機になり、情熱を注いだ「美山錦」を見て、「これほど良いものがあるなら、それを使って消費者に長野の魅力を伝えていかなければと思った」と南さん。それまで使用していた山田錦をやめ、現在は県産米のみで酒造りをしています。

  • 杜氏
  • 酒造り
  • 山、水、気候-いい環境に支えられた酒造り

    酒造りを左右する重要な水は、蔵正面の山側にある横井戸から引いています。木戸から30メートルほど横穴が掘ってあり、その奥に源泉がある。山を浸透して何百年とかけて流れ出ている伏流水です。

    2014年9月、御嶽山の噴火後は不安もあったが影響は全くなかったという。「暮らしの中ではまだまだ不安を抱えています。それでも、この地域の人々は御嶽山と一緒に生きてきた。良い水も、山に支えられてこそですから」

    冬の厳しい寒さも、酒造りには良い環境になる。「自分たちの『造り』に自信過剰にならず、自然があるからこそ、良いお酒が造れるのだと感じています」

  • 地元を背負い、期待に応えづける

  • 150年続いてきた歴史の中、どのような人たちに飲まれてきたのかと思えば、“地域に根差した酒”であることが見えてきます。「この町を背負っているというか、皆の気持ちを裏切るわけにはいかないですから」と南さん。昔の職人たちは思いを雄弁には語らなかった。共に酒造りに取り組むことで、感じ取り、染み込んできたことが、これからも受け継がれていく。

    酒造りは複雑で手間がかかる。しかし、細かい部分に気を遣い、思いやりを持った分だけ変化する。

    「見えない部分を一生懸命やるっていうのは日本人が一番得意なことなのかもしれないですよね。だから、『日本酒』って言うんじゃないかな」

  • 店の前